1 まず結論
この2つを区別する実益は、加算税が課されるかどうかの分岐点が「調査通知」の時点に置かれていることにある。
調査通知
- 実地の調査を行う旨
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
根拠:国税通則法65条6項+同法施行令27条4項
目的:加算税の基準時を画すること
事前通知
- 左の3項目を含む
- 開始日時・場所・目的
- 対象となる帳簿書類その他の物件
- 納税者の氏名・住所、担当職員の氏名・所属官署 ほか
根拠:国税通則法74条の9第1項+同法施行令30条の4
目的:納税者が調査の準備をできるようにすること
なぜ紛らわしいのか
理由は3つある。
- 条文の置かれている場所が違う。事前通知は調査手続の章(国税通則法第7章の2)にあるが、調査通知は加算税の条文(65条6項)の中で定義されている。調査手続の規定をいくら読んでも「調査通知」という言葉は出てこない。
- 通知の方法が電話・口頭で、書面が残らない。どちらも法令上、方法の定めがない。国税庁も、要望があっても事前通知の内容を記載した書面を交付することはないとしている。
- 似た名前の制度が別にある。税理士法34条にも「調査の通知」という規定があるが、これは税理士に調査の日時場所を通知する義務であって、加算税の基準時を定める通則法の「調査通知」とは別物である。
意見聴取が形式的にしか行われなかったとして、過少申告加算税の賦課決定処分の当否が争われた裁決の解説は、こちらにまとめている。
2 通知される事項
2-1 調査通知の3項目
国税庁のパンフレット(加算税制度の改正のあらまし)も、調査通知とは次の3項目の通知をいうと明記している。
- 実地の調査を行う旨(国税通則法施行令27条4項。事前通知を要しない場合は「調査を行う旨」)
- 調査の対象となる税目(国税通則法74条の9第1項4号)
- 調査の対象となる期間(同項5号)
この3つが揃った時点が、加算税の分岐点になる。逆にいえば、税務署から連絡があっても、この3項目が揃っていなければ調査通知は成立していない。
2-2 事前通知の11項目
| # | 通知事項 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 実地の調査において質問検査等を行う旨 調査通知 | 法74条の9第1項柱書(令27条4項) |
| 2 | 調査を開始する日時 | 同項1号 |
| 3 | 調査を行う場所 | 同項2号 |
| 4 | 調査の目的 | 同項3号 |
| 5 | 調査の対象となる税目 調査通知 | 同項4号 |
| 6 | 調査の対象となる期間 調査通知 | 同項5号 |
| 7 | 調査の対象となる帳簿書類その他の物件 | 同項6号 |
| 8 | 納税義務者の氏名および住所または居所 | 令30条の4第1項1号 |
| 9 | 調査を行う職員の氏名および所属官署 | 同項2号 |
| 10 | 調査開始日時・場所の変更を求めることができる旨 | 同項3号 |
| 11 | 通知事項以外の事項について非違が疑われた場合に質問検査等を行うことがある旨 | 同項4号 |
「調査の目的」は、申告内容の確認その他これに類する目的を通知すれば足りるとされており(施行令30条の4第2項)、具体的にどの点に疑問を持っているかまで開示されるわけではない。
2-3 誰に通知されるか
税務代理権限証書に「事前通知に関する同意」の記載があるときは、納税者本人への都合の聴取・調査通知・事前通知は、すべて税理士に対して行えば足りるとされている(国税通則法74条の9第5項、同法施行令27条5項)。
納税者本人が何も知らされていなくても、税理士が受けていれば調査通知は成立している。事務所内で連絡が滞ると、加算税が課されない期間を知らないうちに過ぎてしまう。
また、税務代理人が数人いる場合に「代表する税務代理人」の定めがあるときは、代表者以外の税理士には通知が行われない(同条6項)。
3 加算税の分岐点
令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税の場合。
| 修正申告等の時期 | 過少申告加算税 | 無申告加算税 |
|---|---|---|
| 調査通知前 (更正等の予知なし) |
課されない | 5% |
| 調査通知以後 更正等の予知前 |
5%(加重部分10%) | 10%(50万円超15%、300万円超25%) |
| 更正等の予知以後 | 10%(加重部分15%) | 15%(同20%、30%) |
加重部分:過少申告加算税は期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分、無申告加算税は50万円超・300万円超の部分。このほか、帳簿の提示・提出をしない等の場合には10%(記載等が不十分にとどまる場合は5%)が加重される(国税通則法65条4項・66条5項)。
分岐点は調査通知であって、事前通知ではない。「まだ事前通知が来ていないから加算税はかからない」という理解は誤りである。
「更正の予知」の判断
調査通知の後であっても、更正の予知に至る前であれば5%にとどまる。では、いつ「予知」に至るのか。
この点について、国税不服審判所の裁決(令和7年5月9日裁決)は、国税通則法65条6項の文言および趣旨からすると、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性に係る各事情を総合考慮して判断すべきであるとしている。
実務的には、調査担当職員から具体的な非違の指摘を受けた後に修正申告をすれば、予知があったものとして扱われることになる。
「調査」ではない連絡もある
税務署からの連絡がすべて調査とは限らない。申告内容の自発的な見直しを要請する行為などは「調査」に該当せず、行政指導と位置づけられる(国税通則法第7章の2関係通達1-2)。
そして、行政指導のみに起因して修正申告書が提出された場合、その提出は更正があるべきことを予知してされたものには当たらないとされている。つまり、行政指導の段階で自主的に修正申告をすれば、調査通知がない限り過少申告加算税は課されない。
税務署側には、対面・電話・書面を問わず、調査と行政指導のいずれとして行うかを明示することとされている(調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)第2章1)。明示がなければ、その場で確認しておくべきである。
4 意見聴取があるかないかで、流れはどう変わるか
書面添付なし(意見聴取なし)
税務署からの最初の接触が、そのまま日程調整の電話になる。この電話の時点で調査通知が行われるため、加算税を課されずに自主修正できる余地は、実質的に残らない。
「税務署から電話が来た」と気づいたときには、すでに5%の世界に入っている。
書面添付あり(意見聴取あり)
最初の接触は「意見聴取を行う旨」の電話であり、これは調査通知ではない。事務運営指針は、意見聴取の連絡を調査通知予定日の1〜2週間前までに行うとしている。
つまり調査通知までに1〜2週間の猶予が生まれる。この間に誤りを見つけて修正申告すれば、過少申告加算税は課されない。
4-1 書面添付がない場合の流れ
4-2 書面添付がある場合の流れ
書面添付の実務的な価値は、「調査に入られにくくなる」ことだけではない。調査通知より前の段階で税務署からの接触があるという事実そのものが、加算税を課されずに申告内容を洗い直すための時間を生む点にある。
ただし、この猶予は自動的に利益をもたらすものではない。意見聴取の場で当局が誤りを指摘してくれることを前提に構えていると、指摘がないまま調査へ移行し、調査で指摘を受けてから修正申告することになる。その場合、加算税は課される。意見聴取の連絡を受けたら、自ら申告内容を再検証することが必要になる。
4-3 意見聴取の位置づけ
意見聴取における質疑等は、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的で行う行為に至らないため、「調査」には該当しない。この整理は、書面添付制度に係る事務運営指針の平成24年12月19日付一部改正で明確化された。
(個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)第2章第2節3)
一方で、税理士法35条1項が義務付けているのは「意見を述べる機会を与えること」にとどまり、当局側の応答の方法・程度は法定されていない。また同条4項は、意見聴取の有無が処分の効力に影響を及ぼすものと解してはならないと定めている。
この点が争われた裁決については、別ページで取り上げている。
5 実務上の落とし穴
(調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)第2章2(1))
「調査に伺いたいのですが、いつ頃がご都合よろしいですか」という電話の時点で、税目と期間が告げられていれば、すでに調査通知は完了している。この電話を「まだ日程の相談段階」と受け止めていると、その後に自主的に修正申告しても5%が課される。
事前通知の方法は法令上規定されておらず、原則として電話により口頭で行われる。国税庁も「納税者の方からの要望に応じて事前通知内容を記載した書面を交付することはありません」としている(税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け))。
したがって、いつ・誰から・何を通知されたかを証明できるのは、受け手側が残した記録だけである。一方、税務署側は意見聴取について「応接簿」を作成し、決裁を経て保管している(書面添付制度に係る事務運営指針 第2章第2節4)。この記録の非対称を放置すべきではない。
税務代理権限証書に「事前通知に関する同意」の記載があるときは、納税者本人への通知は行われず、税理士への通知で足りる(国税通則法74条の9第5項、同法施行令27条5項)。納税者本人が知らなくても、調査通知は成立している。
納税者から「事前通知の詳細は税理士を通じて通知してもらって差し支えない」との申立てがあったときは、納税者には調査通知のみを行い、その他の事前通知事項は税理士を通じて通知することができる(国税通則法第7章の2関係通達8-1)。この場合、納税者本人が受けた短い電話が、まさに調査通知そのものである。
なお、この場合において、税理士等に対する意見聴取結果の連絡と併せて税理士等に対する調査通知を行うこととしても差し支えない。
(個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について(事務運営指針)第2章第2節5(2))
1本の電話で、意見聴取結果の連絡と調査通知が同時に行われることが公式に許容されている。漫然と受けると、加算税が課されない期間がその通話中に終了したことに気づけない。
紛らわしい類似概念の整理
| 用語 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 調査通知 | 通則法65条6項 | 加算税の基準時を画する3項目の通知 |
| 事前通知 | 通則法74条の9第1項 | 実地の調査に先立つ11項目の通知 |
| 調査の通知 | 税理士法34条 | 税務代理権限証書を提出している税理士に、調査の日時場所を通知する義務 |
| 意見聴取 | 税理士法35条1項 | 添付書面がある場合に、調査通知前に税理士へ意見を述べる機会を与える手続 |
| 行政指導 | 手続通達1-2 | 課税標準等・税額等を認定する目的に至らない行為。これのみに基因する修正申告は更正の予知に当たらない |
連絡を受けたときに確認・記録すること
- どこの税務署の、どの部門の、誰からの連絡か
- その連絡は調査か行政指導か(明示がなければその場で尋ねる)
- 調査通知の3項目が告げられたか(実地の調査を行う旨・税目・期間)
- 確認できなかった項目は、空欄のままにせず「不明」と記録する
- その日のうちに記録し、以後は本文を書き換えず、補足は追記日と追記者を明示して追記する
6 根拠条文
e-Gov法令検索および国税庁ホームページで確認した2026年7月時点の内容。条数・項番号は令和6年1月1日施行の改正後のもの。